ネトゲがしたいので帰りたい(怒らないでほしい)/ネトゲ②

 湯冷めしちゃうよー? その声を聞いて、私は我に返った。いけない、気が抜けていた。
「大丈夫? ぼーっとして……美佳ったらほんと使えないなあ、ポンコツすぎ。全くもう、仕方ないんだから」
「ごめ……いや普通の口調すぎて流しちゃいそうになったけど、亜季今わりと言ったね?」
 知らないなあ、と亜季はふんわりと笑った。さすが見た目だけはthe おせっかい委員長、様になっている。流石だ。夜ふかし! ゲーム! ひきこもり! と世間にはなかなか理解してもらえない、崇高な生き方をしている私には似合いそうもないのに……。私にはこの生活スタイルのほうが魅力的だしどうでもいいんだけどね!
「そんなぼけっとしてる暇があったら、髪くらい乾かしなよね。美佳が風邪引くだけとかならまだしも、部屋びしょ濡れにされたらたまんないから」
「そんな事言ってー。実際私が風邪ひいたらお見舞いきてくれるじゃないっすかあ」
「まあね。苦しんでる美佳を見たら心がすっとするから」
 こいつの心って何? 氷でできてんの? 少なくとも血は流れてない。
「ていうか美佳生きてる? 今日ずーっと心ここにあらずって感じだけど」
「え? ああまあ、一応、生きてる? ……帰りたい」
 帰ってゲームがしたい。
「やっぱそういうことだよね……はあ、全くもう……折角の修学旅行だよ? いい機会だし、ゲーム廃人やめたら?」
「むりしんでしまうご慈悲をください」
「廃人こわ……」
 特に意味も無く紡がれていく会話。もしかして今すごくJKエンジョイしてる? JKは何も考えずに脳がとろけるような会話をするって聞いたことがあるぞ。やべえ私めっちゃJK!
「そんなゲームばっかやんのもったいなくない? 女子高生してられるのも半分切っちゃったじゃん」
 JKじゃなかったみたいだ! 惜しかった……。
「好きなことするのが一番いいでしょ。私が一番したいのはゲームだもん」
「……ならせめて携帯ゲーム機にして外でやるとか」
「なるほどね! 訂正する。私はネトゲがやりたい」
「三回死んでね」
 にっこり笑う亜季と私、おだやかな空気が流れる。だがその目は笑ってない。
「ていうか修学旅行って何のために存在してるの? Wi-Fi環境のないところに何日間も滞在させるとか狂ってる、鬼畜の極み」
「うーん。私は考えたことないなあ、楽しいし。でも、美佳みたいなやつを矯正しようとしてるって面もあるのかも。ネトゲ厨のおかげで新しいことに気づけたよ、ありがとう!」
「照れる〜!」
 再びお互いにっこり。だめだ、このままでピローピッチバトルin修学旅行が始まってしまう。ここの枕はいけない、さっき亜季に投げようとして触ったとき、強度が足りないことに気づいた。そして音からして中身は小豆。古い小豆が部屋に広がるさまは準JKの私ですら避けたい事態だ。ぜったい気持ち悪い。ならばする事はひとつ! 亜季に向き直ると、亜季もこちらを向いていた。さすがは幼なじみ、以心伝心ってやつだな。気持ち悪っ。目を閉じて呼吸をひとつ、そして顔をあげた瞬間が――スタートだ!

「いやまさかこんなことになるとは、壁脆すぎ」
「か弱いJKがちょっとはしゃいだだけでなあ……でも壁の中に白骨があったのは驚いた」
「せやな」
 それは遡ること2時間前。あの後始まった少林寺拳法(亜季)VSバリツ(私)の最中、ふと気が緩み壁を破壊してしまったところから始まる。この壁について伝えるべきか、悪いのは亜季か私か、などで言い争っていたが、さすがに壁が損壊したときの音は大きく、割と早くに先生が来てしまったため無意味となった。また、悪いのがどちらかという話も、ほぼ同時に壁にダメージを与えたことと、城見先生が見ている前ということで、両成敗となった。だがそれだけでは終わらなかった、城見先生は壁の中に白い何かを見つけてしまったのである。旅館、壁、白。まさか。そんな狼狽する先生は目をそらした先に見つけてしまう――言い逃れできないくらい立派な頭蓋骨を!
 SANチェックに失敗した城見先生の叫び声を聞いて、他の先生やら旅館の従業員やらがぞろぞろとやってきたのだ。これはいけない、と思った私たちは「悪いのはこいつです!」と指をさしあったが(亜季は許さない)、みんなの視線はすべて壁だったものに向けられていた。あまりの光景に静寂が辺りを包む中、その沈黙の膜を破ったのは片岡校長だった。「……なるほど」そうつぶやいた校長の声は何かを確信したかのような力強さを持つものであった。校長は指を鳴らし「皆さん、食堂に集まってください」と告げ、私たちもその中に第一発見者として招かれた。
 因縁やら動機やらという単語を聞き流しながら、どうすれば怒られないですむのか必死になって考える私たち。そのため再び校長の声が聞こえた時にはすべての説明が終わっていた。よくわかんないけど犯人は女将さんだったようで、
「あっ文字数……」
「修学旅行の日記をそんなに丁寧に書く人間初めて見た」
「私は初めて書いた」
 えーと、犯罪をおかすのはいけないことだなって思いました、と。
「明日はもーっと楽しいね。ね、美佳!」
「だれがハム公だ」
 私は明日(今日)を楽しみに思いつつ、眠りにつくのであった。明日には帰れるからね!
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