むかーしむかし、あるところにシンデレラという綺麗な女の子が住んでいました。シンデレラのお家は小さい頃両親が離婚していて、長い間お母さんがいませんでした。それを可哀想に思ったお父さんは再婚をし、新しいお義母さんとその子供であるお義兄さん、お義姉さんを家に連れてきました。シンデレラはとても喜びましたが、その喜びもつかの間、お父さんが流行り病で亡くなってしまいます。それからお義母さんとお義兄さんはシンデレラをよく気にかけてくれるようになり、それに嫉妬したお義姉さんはシンデレラをいじめるようになりました。そして、シンデレラはそんなことでしか自己を満たせないお義姉さんに、すっかり同情していました。

    姉「シンデレラ!シンデレラはどこ?!」
    シ「お義姉様、わたしはここです」
    姉「まだ箒かけてたの?このノロマ!床掃除のあとはこの洗濯物の片付けだからな!」
    シ「はい」
    姉「わたくしは今夜の舞踏会に向けて準備がありますから。王子様のハートを射止めるのよ、邪魔すんじゃねーぞブス!」
    シ 「はーい」

    シ「あぁ……かわいそうなお義姉様。性格が悪ければ顔も悪い、口だって悪いお義姉様が舞踏会なんて、恥さらし以外のなにものでもないのに……」
     シンデレラは現実を見れる子でした。
    シ「そうだわ、お義兄様やお義母様に、お義姉様をひきとめていただきましょう!」

     さっそく、シンデレラはお義兄さんの部屋に向かいました。
    シ「失礼します、お義兄様」
    兄「どうぞ、シンデレラ」
     お義兄さんの部屋にはいつも本が散らばっています。
    シ「お義兄様、私、お義姉様が舞踏会に行かないよう、お義兄様から言って欲しいの」
    兄「残念だけどね、それはできないな」
    シ「どうして?お義兄様はお義姉様が恥をかいてもいいっていうの?」
    兄「あいつは自分の醜さを理解してないようだからね。舞踏会で周りと自分を見比べてくるといい、荒療治にはぴったりさ」
    シ「そんな、ひどいわ」
    兄「普段のあいつの態度だって治るだろうよ。シンデレラ、これはめでたい事なんだよ」
    シ「良いことではあるかもしれないけど、そんなやり方はどうかと思うわ」
     シンデレラは怒って部屋を出ていきました。

     次に、シンデレラはお義母さんのいるリビングに向かいました。
    シ「今いいかしら、お義母様」
    母「なぁに、シンデレラ」
     お義母さんはお昼ご飯の片付けをしているようです。
    シ「お義母様、私、お義姉様が舞踏会に行かないよう、お義母様から言って欲しいの」
    母「残念だけど、それはできないわ」
    シ「どうして?お義母様も、お義姉様が恥をかいてもいいっていうの?」
    母「そんなことはないわ。けれど、私の教育方針は自己責任なの。自分で決めて自分で行動できるようになって欲しいのよ。だからあの子の決めたことは止められないわ」
    シ「でもそれって限度があると思うの!自己責任なんて言ってもお義姉様は未成年よ、結局の責任は保護者にあるはずよ」
    母「そうね。だから私の責任の元で、自己責任にしているの。私も責任を負った上で好きにやらせることは納得がいかないかしら?」
    シ「いえ……時間をとらせてごめんなさい、ありがとうお義母様」
     シンデレラはこれはお義母さんとの考え方の違いであり、これ以上言い争うことに利益はないと感じ、引き下がりました。

    シ「ふたりには断られてしまったけれど……私、やっぱりお義姉様のことを放っておけないわ。けれどお義姉様が私の話を聞いてくれるとは思えないし……」
     考えていると家事をしたくなるシンデレラは、言われた通り床掃除と洗濯、ついでに断捨離をしつつ考えましたが、解決策は思いつきません。シンデレラは困り果てました。そして時間はそんなことも知らずに進んでいってしまうものです。
    シ「あぁ、馬車の音が遠ざかっていく……行ってしまったのねお義姉様」
     シンデレラは無力な自分が申し訳なくなり、ついに泣き出してしまいました。するとシンデレラの目の前に魔法使いが現れたのです。
    魔「泣かないでシンデレラ〜!いつも頑張ってる君のために、僕が魔法をかけてあげるよ!」
    シ「あなたは……魔法使い?」
    魔「そう!とりあえず願いを言ってみて、常識の範囲内で叶えちゃうよ!」
    シ「なら、お義姉様の舞踏会行きを止めて欲しいわ!」
    魔「うんうん、君を変身させて舞踏会に――っては?君の?お義姉さんの?舞踏会を?」
    シ「ええ!このままではお義姉様が可哀想で……」
    魔「いや……たしかに優しいのが君のいいところでもあるけど……魔法って私利私欲のために使ってナンボみたいなとこあるから……」
    シ「これは私の心からの願いよ、嘘じゃないことくらい魔法使いならわかるでしょう」
    魔「それはわかるけど〜……うーんでもちょっと難しいよ、もう君のお義姉さんは舞踏会に着いちゃってるし」
    シ「なんですって?!」
     魔法使いは杖をふり、舞踏会の様子を映し出しました。そこにはどの殿方にも相手にされず、今にも泣きそうな表情になっているお義姉さんがいました。
    シ「あぁお義姉様、可哀想なお義姉様。私が何も出来なかったばかりに……」
     シンデレラはまた泣き出してしまいました。
    魔「えぇー困ったなぁ、君を笑顔にさせないとノルマが達成出来ないんだけど……でも時間を戻すことは禁止されてるんだよねぇ」
    シ「そうだわ!」
    魔「うわっいきなり叫ばないでよ」
    シ「魔法使い、いいえ魔法使いさん、私を男性にして!身長が高くて足が長くてとびきり顔のいい男の人!」
    魔「えぇっ?まさか君、君自身がお義姉さんと踊るっていうのかい?」
    シ「そうよ、お願い魔法使いさん!」
    魔「ええー、お願いされても、性別を変える魔法も禁止されてるから難しいよう。もっと常識的なので頼むよー」
    シ「なら男装でいいわ、お義姉様を一瞬で勝ち組にできるような裕福そうな男性の格好でお願い。あと移動手段も欲しいわ」
    魔「それならできるけど……シンデレラ、僕は君のためにやってきたんだよ?本当にお義姉さんのために使っていいの?」
    シ「いいって言ってるじゃない」
    魔「うーん、仕方ないなあ……じゃあいくよ、ビビデバビデブー!」
     魔法使いが魔法をかけると、シンデレラはどこに出しても恥ずかしくない、良家のイケメンにしか見えなくなっていました。
    シ「ありがとう魔法使いさん、これならお義姉様もうっとりね!」
    魔「君がうれしそうで何よりだよ、僕は複雑だけどね。外に馬車も用意しといたから、それでいくといいよ。あっでもその前に注意をひとつだけ。魔法は12時になると解けちゃうから、くれぐれも時間には気をつけて!靴はプレゼントだけど、他は魔法だから」
    シ「わかったわ……違うわ、今の私は男性だものね。……ありがとう魔法使い、恩に着るよ」
    魔「うんうん。じゃあ、成功を祈ってるね〜」
    シ「あぁ、次にあった時は僕からなにかさせてくれよ」
     シンデレラは馬車に乗り、大急ぎで舞踏会に向かいました。

     舞踏会は既に明暗が分かれているようでした。元々王子様に見合う女性を探すためのものなので、女性のほうがたくさん来ていたのです。
    シ「これならまだ挽回できそうだ」
     シンデレラが会場に入ると、少し周囲がざわつきました。美しいシンデレラに、みんな見とれているようです。しかしシンデレラはそれら全てを無視して、一直線にお義姉さんの元へ行き、膝をつきました、
    ざわざわ(「ウワッ顔がいい」「中性的イケメンね」「細いけれど筋肉もしっかり付いているわ」「細マッチョよ細マッチョ」「でも手が少し荒れているわ」「ばっかお前あれは洗濯の跡よ」「家事までこなすってこと?」「冷静に考えてやばくない?」「理想すぎでしょ」「推せる」「きゃあっこっち来たわ」「誰かうちわないの?」「バーンして〜」「頼む結婚してくれ」)
    シ「お嬢様、僕と踊って頂けますか?」
     突如現れたイケメンが、器量の悪い女性にダンスを申し込んだので、あたりの淑女たちからは叫びのような声が漏れました。中にはショックで気絶してしまうお嬢さんもいたほどです。お義姉さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていましたが、すぐに当然!というような顔をつくり、シンデレラの手を取りました。
    シ「誘いを受けてくれてありがとう」
    姉「ちょうど空いたところだったので。普段ならば断っていたところだわ」
    シ「それはそれは。僕は幸運だね」
    姉「そうよ、せいぜい神に感謝することね」
     それから、2人は踊りました。まるでずっとお互いを知っていたかのようなぴったりな動きに、ハコは熱狂に包まれ、スタンディングオベーションが起こりました。しかし、何故かお義姉さんの顔はどんどん曇っていきました。
    姉「もういい」
    シ「まだ一曲しか踊っていないじゃないか」
    姉「そうだけど、もういいの!」
     お義姉さんは半ば無理矢理にシンデレラから離れ、逃げるように走っていきましたので、シンデレラはそれを追いかけました。会場の外にあるガーデンスペースまで来たところで、お義姉さんは止まりました。
    姉「ついてこないで!」
    シ「待っておくれよ。いきなり走り出したわけを聞かせてはくれないのかい?」
    姉「うるさい!」
     お義姉さんが振り上げた手を、シンデレラは掴んで止めました。普段の家事がこんな所で役に立つとは驚きですね。やはり筋肉は嘘をつきません。
    姉「…………なんで私なんかに声かけたの、ぼっちで突っ立ってるブス女がいたからじゃないの?私にさらに恥をかかせて笑うためじゃないの?なのにあんたはこんなダンス踊ってさ、なにがしたいの……っす、好かれてるんじゃないかって勘違いするでしょ!」
    シ「そんなつもりじゃ……」
    姉「仮にあんたが度の超えたB専だってんならいいよ、納得してあげる。けど残念、私は心までブスなの!綺麗で優しくて、誰からも好かれるような妹に嫉妬して、裏でいじめてるような女なの!」
     お義姉さんは泣いていました。シンデレラは少し戸惑い、手を離しました。
    姉「もうどっかいってよ……私が惨めでしょ」
    シ「それは違うよ」
     シンデレラはお義姉さんのことを抱きしめました。あすなろ抱きです。
    シ「そう思うってことは、君がちゃんと悪いと思ってるってことだよ。善悪の判断ができるならまだやり直せる。心から謝れば、きっと君の妹も許してくれるはずだよ」
    姉「……そんなわけ」
    シ「大丈夫。美人で礼儀正しくて文武両道家事上手な君の妹さんなら、心も広いに違いないと思うよ」
    姉「そ、そこまで言ったっけ……ほんとにそう思う?」
    シ「ああ」
    姉「信じてもいいの?」
    シ「もちろんさ」
    姉「そう…………あ、ありがと(小声)」
    シ「え、なんだって?」
    姉「なっなんでもねーよ馬鹿!」
    シ「ふふ、焦って口が悪くなっているよ」
    姉「うるさいっ///」
     そのとき、時計の音が鳴り響きました。針はもうすぐにでも12を指してしまいそうです。
    シ「大変だ!すまない、もう僕は帰らなければならないんだ」
    姉「この流れで帰んの?!」
    シ「ごめんね、またいつか!あいたっ」
    姉「転ぶくらいなら前向いて行っていいから!あっ」
    シ「じゃあ、妹さんと仲良くするんだよ〜!」
    姉「く、靴落としてるー!あぁ、行っちゃった……でも、素敵な人だったな」

    シ「な、なんとか間に合ったわ……まさか馬車まで消えるとはね、さすがに歩き疲れたわ。もうすぐ夜明けね。お義母様たちは寝てるだろうし、玄関から入ってしまいましょう」
     シンデレラが家に入ると、お義姉さんが立っていました。
    姉「あっ……シンデレラ、今までごめん!すごい勝手だってわかってるし、軽蔑されるかもしれないけど、それでも私は、これからあんたと仲良くしていきたいんだ!お願いシンデレラ、今までのことを許して!」
     シンデレラは面食らいました。お義姉さんはいったいいつからそこに立っていて、どんな思いでシンデレラを待っていたのでしょう。お義姉さんの肩は少し震えています。
    シ「……もちろんよ、お義姉様。お義姉様はとてもよく反省して、私に謝罪してくださったもの。許すしかないじゃないの」
     お義姉さんの思いを知っていたシンデレラは、迷うことなく答えました。シンデレラが手を差し出すと、お義姉さんはその手を握り返しました。姉妹は和解することが出来たのです。感動の瞬間ですね。
    姉「ごめんね、ありがとう。……やっぱ向いてないな、 死ぬほど照れくさい」
    シ「ふふ、お義姉様はひねくれているものね」
    姉「実はまだ怒ってない?」
    シ「それにしても、どうしようかしら。今から寝たら寝坊してしまいそう」
    姉「なら夜食でもつくるよ。……聞いてほしい話も、あるんだ」
     そして2人は今までの時間を惜しむかのようにいろんなことを話しました。好きな食べ物、好きな色、好きな本。お義母さんが最近若作りに必死なこと、お義兄さんの本棚の奥に漆黒のノートが隠れていること。そして、今日舞踏会で出会った不思議な男性のこと。
     気がつけばもうおひさまは登っていて、小鳥たちのさえずりが聞こえてきています。
    シ「お義姉様、私少し眠くなってしまったわ。一眠りしてきてもいいかしら」
    姉「わかった、2時間くらい経ったら起こしにいく」
     普段起きる時間まで起きていたから、実質早起き理論ですね。シンデレラは幸せな気持ちでベッドに入りました。

     けれどお義姉さんはシンデレラを起こすことはありませんでした。目を覚ますと、おひさまはもう沈むところです。すべて夢だったのかと不安になりましたが、視界の端に昨日の靴をみつけて安堵しました。……昨日の靴?
    シ「なんてこと!この靴はお義姉様が片方を持っていたはず、お義姉様に昨日のイケメンの正体が私だとバレてしまったわ!」
     シンデレラは焦って部屋を飛び出し、お義姉さんを探しに行きました。
     お義姉さんはすぐに見つかりました。家の裏の小さなガーデンスペースの椅子に座っていたのです。
    シ「お義姉様……」
    姉「……あんたは結局私を馬鹿にしたかったの?自分がやってきたことを思えばさ、仕方ないことだってわかるよ。けど、それでも、悲しいものは悲しい」
    シ「お義姉様違うの、私は――」
     どうしていじめられても助けに行くのか。どうして待っていてくれたことがあんなに嬉しかったのか。シンデレラはもう自分の気持ちに気づいていました。
    シ「――お義姉様のことが好きなの!」
    姉「……は?」
    シ「お義姉様好き!大好き!卑屈なとこも惚れっぽいとこも面食いなとこも全部好き!昨日のイケメンは私の男装、言ってたことのすべてが本当、信じてもらうのが私の願望」
    姉「待って待って、えっと、それはつまりどうすれば」
    シ「結婚して!」
    姉「いきなりすぎる無理」
    シ「いきなりじゃなきゃいいのね、付き合って!」
    姉「いや、そもそも私とシンデレラは姉妹だし……」
    母「ママは構いませんよ」
    シ「お母様、いつからそこに!」
    兄「俺も認めざるを得ないな」
    姉「クソ兄貴まで!」
    シ「……問題はないようよ、お義姉様。お義姉様だって私の顔好きでしょう?」
    姉「えっまあ……でも私はシンデレラのこと、まだ良く知らないし」
    シ「なら今度一緒に、デートしましょう。これから知っていけばいいわ」
     シンデレラの真剣さに、お義姉さんも心を打たれたようでした。
    姉(にこっ)(少し照れたように笑って、うなずく)
    シ「返事はよくわからないけど……今日が私にとって、最高のプレゼントね」
     そうして家族はずっと幸せに暮らしました。
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